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てくれたのですが、これも1つの縁です、「よし生協が福祉活動をやっているのか、それじゃひとつこれに力を入れてみよう」と思いました。
生協の福祉活動は今でもしていますが、「暮らしの助け合い」という名前で呼ばれています。もっと広い言い方で言うと「住民参加型福祉サービス」という活動です。当時は2時間700円のお金をもらって、ご家庭に行って掃除・洗濯・買い物といった簡単な家事援助をする。生協の組合員が特別に手を挙げて、こういう援助会員になりたいという人たちが、援助を必要とするご家庭に行ってサービスをして700円もらう、その利用者もやはり生協の組合員です。そういう「暮らしの助け合い」という仕組みがあります。これは面白いのでちょっと調べてみようということで、調査団を組み全国を回りました。
そのうちの1つが札幌です。先程も経歴のところで申しましたように、北海道は私の第二の故郷です。「コープ札幌」という結構大きな力の強い生協がございます。その「コープ札幌」でも「暮らしの助け合い」をしていました。そこに行きました時に、実地にサービスを受けているお宅に行きました。35〜36歳の女性でリウマチのひどい方のお宅に、私と「暮らしの助け合い」のコーディネーターの方、それに行政課で行きましたが、いろいろなことをその方に聞きました。
「なんか困ってることありませんか。どうですか、この人たちのサービスに満足してますか」と聞くと「ええ」とは言いますが、本人を目の前にしてますから、「うーん」と思っても言えないのです。それで、その人たちに「ちょっとあっちへ行きなさい」と言って、差しで聞きました。「なんか困ってることありますか?」「あります」『なんですか?」と聞きましたら、「洗髪後、髪を乾かす時には体を全部拭いて、着るものも着せて、それからドライヤーで髪を乾かしてほしい」これが困っていることだと言うのです。「え一っ!?それなら、そのようにしてくれと言ったらいいでしょう」と言いますと「それが言えないんです」。これはまた勉強になりました。力関係があり、700円払っているとはいえ、「この人たちが来てくれなかったら、私はお風呂も入れないし髪も洗ってもらえない、機嫌を損ねたら大変」だということで、こんなことも言えないということを知ったことも1つの勉強でした。
厚生省の役人や県庁の役人をしていても、中々こういう福祉関係の役人が自宅に行き、直接利用者に会うということはありません。福祉というのは全部施設でしていると思い込んでいます。私も厚生省の課長をしている時に宮城県や北海道、鹿児島県等いろいろなところに出張に行きますと、本庁から課長が来られたので、わが県の活動状況を見てくださいということで、視察と称してあちこちに案内されます、これはありがたいことです。99%行く先は施設です。新しくできたこの特別養護老人ホームを見てください。新しくできたこの身障のリハビリセンターを見てください、と全部施設です。建物を見ればすごいな、立派だなということが言えますし、そこには人も資源も集まっており、一度に入所者にも会うことができます。まとめて見られて効率的です。しかし効率的に見るだけが視察ではありません。リウマチの患者さんに会うまで、私もそこまであまり気がついてませんでした。福祉の現場というのは、かえって皆さん方のほうが知っているかもしれません。大多数のサービスを必要としてる方は施設ではなく、実はご家庭にいるのです。それを知らないで福祉の仕事をしており、半分も知らないということに、ずいぶん経ってから気がっきました。気がっいただけよかったかなあというふうに思っています。

 

 

 

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